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06/10
REINCARNAZIONE
先週は例によって来日したアントネッラのアテンドウィークだった。展示会(彼女はイタリアの皮革協会のディレクターとして展示会に来る)のある週日は一緒に夕食をつきあうくらいだけど(それでも女史はある日黒真珠を所望。ならばと御徒町周辺の真珠卸売業者をネットで検索、営業時間ギリギリに速攻タクシーで乗りつけ無事ご購入という荒技もこなす)今回は珍しく週末土日2日ともフリーなので、それなら1日くらい東京から脱出してみようと考えた。いつも東京案内ばかりじゃ、こちらのネタも尽きかけているしね。で、都心から1時間あまりで行ける鎌倉に行くことに。週末だし、紫陽花の季節真っ只中だし、混雑は覚悟の上だ。ただ、こっちも自主的に鎌倉に行くのは久しぶりなので、まずはポイントをネットで下調べ、手頃なガイドブックも1冊手に入れた。全体を把握するつもりで、ぱらぱらめくってみる。みどころはたくさんあるけれど、初めての鎌倉を半日でざっと回るとなると、絵に描いたような観光コース、大仏〜若宮大路〜鶴岡八幡〜北鎌倉ということになるだろうな。いずれにしてもイタリア人の行動は思いつきが優先する。あまり綿密に計画を立てても無駄、どうせなしくずし的にがらがらと崩れ去るのがオチだから、ゆる〜く考えておくのが身のためである。それからもうひとつ大事な手配を忘れてはならない。アテンドの補佐としてイタリア語が堪能な若い建築家K君(彼とはヴェネツィアの路上で偶然に出会った。その話はまた別に)にも声をかけて同行してもらうことにした。アントネッラの矢継ぎ早の質問攻めをある程度分散できそう。これで準備は万端だ。当のご本人にはVECCHIACITTA MEDIEVALE(中世の古都)といってあるだけなので、まだピンと来てないらしい。ちょうどレナード・コーエンの「WABI-SABI」なる本を読んでいるところだというし、それなら禅寺のひとつも見ておいた方がいいだろうということで説得(関係ないか)。どちらかというと東京のトレンドスポットに行きたそうなそぶりをみせるも、ここは強引に連行することにする。今までの経験から(友人たちに自慢できる話題づくりという点でも)後になれば行ってよかったと思うに決まっているのだ。果たして当日は昼から小雨模様になったけれど、靄に包まれた山の緑や苔むした庭がしっとりと美しかった。予想通りどこもかしこも混み合っていたので、できるかぎり人ごみを避けながら行動する。とはいっても大仏は外せないから、まず最初に突入。私としても数十年ぶりに拝む大仏だ。大きな仏陀が目の前に現れると思わずおお!と声を上げたくなり、無条件に安心感が湧いてくるものだ。アントもBellissimaを連発して写真を撮りまくっている。(前回買ったキャノンでね)鎌倉にCAPITALEがあったのはマルコ・ポーロの時代で、その頃建造されたものだと簡単に説明しておく。まあ、マルコ・ポーロ自身はどうやらジパングなる国のことはうわさ話で聞いただけで、実際には日本には来てないからこの大仏には対面していないわけだけど。

大仏を拝んで駅へ戻る途中、あまりの人の多さと歩きにくさに辟易とする。歩道から少し逸れたところに旅館風の小体な庭が見えたので、覗いてみると趣きある和風建築の中華料理屋だった。表の雑踏とはうってかわってひっそりした佇まい。訊いてみるとふつうに営業中ということなので、ここで昼食にすることにした。このチョイスはアタリで、オーソドックスな味の北京料理もさることながら、元華族の屋敷を改装したという純和風の設えや仲居さんの和服姿にアントもかなり気に入った様子。めでたし。好物の春巻き(片栗粉を使ったとろみの説明に苦労する)や小龍包も食べたしね。食事をしながら話題は大仏から仏教、そしてなぜかREINCARNAZIONE、生まれ変わりの話へ。アントは以前から自分の前世は日本人だと主張していて、そしてその前世では男だったと思っているらしい。もしかして侍だったのかもねと、武士が幕府を築いた鎌倉に何か感じるものはありやと問うてみたけれど、どうやら彼女の前世は中世鎌倉あたりではないようで、特段にはないという。何を根拠に前世は日本人と思うのか詳しくは訊きそびれたが(今度訊いてみよう)、たしかに彼女の和食好き、何でもオッケーなMANGIATUTTOな食べっぷり、執心ぶりは通常のイタリア人レベルを超えているところがあるようだ。イタリア人もことのほか占いや縁起担ぎが好きだし、我々日本人以上に迷信深いところがある。共通の友人であるキアラの義父が職業的な占星術師(ASTROLOGO)だという初耳情報もあって、さらに話は盛り上がる。西洋占星術ではいわゆる星座に加え、生まれた日時によって算出される惑星との関係も重視する。アントの説では、その上干支(イタリア人の間でも割にポピュラー)との組み合わせも重要なのだとか。彼女は山羊座の卯年、つまり「やぎうさぎ」。私は「みずがめざる」で、イサオ君は「ふたごうし」、K君は「おとめうし!」ーーーそれぞれ合体した奇妙な動物を勝手に想像して大笑いした。不思議なのは、星座占いが大好きなイタリア人が血液型にまるで頓着しないことだ。アントなど自分の血液型も知らないらしい。日本では、星座や干支に血液型も組み合わせて性格判断するんだといったら、俄然自分の血液型に興味が湧いたようだ。(マイペースぶりからいって、たぶんB型に違いない)午後に鶴岡八幡宮に詣でると、当然神社と寺社の違いについて説明しなければならない。イタリア語にはこのふたつを区別する言葉がなく、どっちもTEMPIOなので厄介だ。おまけに八幡様といったら両方を習合したものであり、さらにややこしいーーーまあ、そこまで説明しなかったけど。アントはもちろんおみくじをひいた。答えは「中吉」(凶でなくてよかった〜)。直訳するとMEDIA FORTUNA となるが、中くらい、つまりまあまあ良いということではなく、それより先がない大吉に比べておみくじ的には最高なのだと教え、日本語としても解読困難なおみくじの文言をK君とふたりでなんとか訳して伝える。縁談も「異性は親に会わせてからつきあうのが良い」など、すべてのキーワードが「親のいうことに従え」だったのには納得したかどうか。一応、古来より日本人の道徳観の基本は親を敬うことなのだと補足しておいたけどね。実はかくいう私こそ、前世はヴェネツィア人だったと思っている。初めてヴェネツィアを訪れた時の衝撃は忘れられない。そこが自分にとって特別な場所だとあれほど強く打ち抜かれたように啓示を受けたのは、後にも先にもないことだった。その後、導かれるようにしてヴェネツィアを再訪することになり、いろいろな出会いがあって今に至る。人生、本当にどうなるか分からないものだ。こうしてアントネッラとお互いの前世について話をしているなんてことも、考えてみれば摩訶不思議な縁で結ばれている結果なのだから。
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